現地討論会

都会と自然の狭間で地球を学ぶ千葉大学大学院融合理工学府D4
雪氷学研究室 鈴木拓海

掲載日:2023年12月11日

2023年11月19日(日).日本山の科学会2023年秋季研究大会・現地討論会が開催された.今回のテーマは,「関東山地東縁の第四紀地形・地質:山地から平野底へのうつりかわり」であった.このテーマに沿って,参加者は東京都あきる野市から立川市にかけて流れる多摩川下流へ向かって巡検した(図1).解説は,東京都立大学・地理環境学科の鈴木毅彦教授によってなされた.当日,観察された地層の写真とともに,討論会の様子をここにまとめ,報告としたい.

図1: 現地討論会の巡検地点.Google Mapを用いて作成.
図1: 現地討論会の巡検地点.Google Mapを用いて作成.

AM 8:45.研究大会会場であった戸倉しろやまテラス前へ集合.マイクロバスが約20名程度の参加者を乗せて出発した.この日は雲ひとつない空で,初冬とは思えないポカポカ陽気となり,巡検日和であった.初めの巡検地点は,三内まいまい坂と呼ばれる坂を降りた地点であった(写真1).ここで参加者は留原層を観察することができた.写真1中央部の黄色部分が,過去御嶽山の噴火によって堆積したOn-Pm1テフラである.

鈴木毅彦先生より,「この層を顕微鏡で見てみると面白いよ」とのご説明で,多くの参加者がサンプルバッグに地層を採取して持ち帰っていた.私は雪氷学の専門なので,砂を見て興奮する参加者を遠くから薄い目で眺めていたが,氷河で風化氷を見た時のような気持ちを思い出してみると,納得の光景だった.砂を顕微鏡で見させてもらえる機会があれば,ぜひ私も見てみたいなと思った.

写真1: 三内小机まいまい坂(Stop1)
写真1: 三内小机まいまい坂(Stop1)

二番目の巡検地点は,2 – 3 kmほど下流方向へと進んだ,東京サマーランドの近くに聳え立つ,六枚屏風岩であった(写真2).電柱よりも十数メートル高いこの岩壁は,長い年月をかけて川の水流によって削られ,形成された加住礫層である.

この写真2は地球の歴史を感じさせる1枚だ.ここにハンガーボルトが打ってあれば,ロープを出して登ってみたいなとおもった.ちなみに東京サマーランドには,日本最大級の流れるプールがあるらしい.たくさんの礫がこれまで流されてきたんだなあと思うと,少し切なくなった.

写真2: 六枚屏風岩(Stop2)
写真2: 六枚屏風岩(Stop2)

二番目の巡検地点は,さらに平野方面へ向かった地点.ここで参加者は山田層と四万十帯不整合を観察することができた.一見ただの壁のようにしか見えないこの平な壁は,山の隆起によって上昇した地層と,隆起の際に堆積した地層の接合部分なのである.

土壁の上に立って,遠望する形となったが,少しでも間近で見ようと川底へ降りていく参加者もいた.

写真3: 北浅川河床(Stop3)
写真3: 北浅川河床(Stop3)

最後に,参加者は立川市の多摩川河床で小山田層Hu1&2テフラを探した(写真4).残念ながら観察を行うことは叶わなかったが,関東山地から関東平野にかけて,ダイナミックに地層や地形がうつりかわる様を肌で感じることができた.また,どのような質問にも的確に回答をする鈴木毅彦先生を見て,これが博士かと感銘を受けた.私も次の春には学位を取得する予定だが,まだまだ研究の入り口に立つに過ぎないことを自覚した.自分の専門とは異なる研究の世界を見られたこと,大好きな山の神秘に触れることができたことは,私にとって大きな収穫となった.参加者の皆様にとっても,非常にメモリアルな日になったことだろう.

写真4: 多摩川(Stop4)
写真4: 多摩川(Stop4)

これまで私は,気温が低く酸素濃度も薄い雪山をフィールドに,山を科学してきた.対照的に今回の舞台は,暖かい日光のさす大都会東京であった.普段暮らしている街の近くで,地球の神秘を感じることができた.また,人類が地球に現れる遥か昔に起きていた事象を,地質から読み解くことができるというのも,興味深かった.今起きていることを常に考えている自分からすれば,いかにこれまで狭い視野で物事を考えているかを痛感させられる現地討論会となった.来年の秋季研究大会は,長野県大町市で開催予定である.現地討論会では,また新しい発見があると思うと,今から非常に楽しみだ.(写真提供: 西村基志)